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その日調べたことなど、なんでも書きます。

コソボ独立から10年 ネットニュースは成長したのか

先日、日本中が平昌五輪のメダルラッシュに沸くなか、コソボ独立から10年」というニュースがひっそりと流れました。

headlines.yahoo.co.jp

コソボ独立から10年ということは、コソボは独立しなかった」からも10年近い歳月が経ったということです。「コソボは独立しなかった」とは何か。よく知らない人のために簡単に解説しておきます。

我々ネットニュース業界で働いている人間が、ほぼ必ずといっていいほど読んでいる2冊の名著があります。1冊は中川淳一郎氏の『ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書)』。もう1冊が当時ヤフージャパン内でニュース事業を担当していた奥村倫弘氏の『ヤフー・トピックスの作り方 (光文社新書)』です。どちらも発売されてからかなり時間が経過していますが、今読んでも色褪せない内容です。

その『ヤフー・トピックスの作り方』には、こんなエピソードが記されています。かいつまんで紹介します。

2008年2月17日、紆余曲折を経て、セルビアの自治州だったコソボが独立宣言を行った。旧ユーゴスラビアでは長きにわたる民族紛争が続いており、これは世界的なビッグニュースだった。しかし、このニュースをヤフー・トピックスに掲載してもアクセス数は伸びない。結局、コソボ共和国独立に関する話題のアクセスシェアは全体の2%に過ぎなかった。以来、ヤフー・トピックスでは「コソボは独立しなかった」と言われるようになった。

ちょっとしたおとぎ話のような趣がありますね。しかし、Yahoo!ニュースという最大手のニュースサイトで「コソボは独立しなかった」といわれた影響は大きく、このエピソードはネットニュースとジャーナリズム、PV至上主義批判という文脈でたびたび語られることとなりました。自分がネットニュースの仕事に携わるようになったのは2011年なのですが、あるときは自嘲的に、またあるときは戒めとして、「コソボは独立しなかった」というフレーズを聞いたものです。

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さてこの10年、ネットニュース界はどのように変わったのでしょうか。もし今コソボが独立宣言をしたら、ヤフーニュースで1位をとれるのでしょうか。

ここ数年で大きく変わったのは、アルゴリズムによって投稿の表示回数が変わるSNSの台頭と、それによって引き起こされたフェイクニュース問題。少し遡れば、キュレーションメディアによるリライト記事の粗製濫造、検索結果の汚染。さらに時計を巻き戻せば、個人が書いた記事を直接のニュースソースとして扱うようになったこと(これにも反動が起きつつある)、などがあります。他にもブログメディアブームとかなんか色々あったような気がするけど忘れた。

思えばたびたび、ジャーナリズムの危機だなんだという話を目にした/聞いたような気がします。「報じた方がいいニュース」というのはもちろんあると思いますが、日頃から「ジャーナリズム」を強く意識しているかというと、そこまででもないというのが正直なところ。とはいえ現在関わっている媒体の特性もあり、わりと気にしてる方ではあると思いますが…。

コソボは独立しなかった」を経験したヤフーは、もはやネット中の「使える」コンテンツをほぼ集めきってしまったと言っていいと思います。そして現在はオリジナル記事の制作や個人が書いた記事をニュースとして扱うなど、新たなことも試すようになりました。これは本当に変わったなと思います。

コンテンツを配信するパブリッシャーは「PVを取るだけでいいのか」という疑問は持ちつつも、食い扶持を稼ぐため、相変わらずSNSや各ポータルサイト、ニュースアグリゲーションアプリにせっせと記事を配信しています。そしてたまに炎上したり、「下世話すぎる」とヤフーさんに怒られたりしています。もちろん、素晴らしい記事を作るところも増えています(これ大事)。

結局のところ、読みたい記事、読まれる記事、読んで欲しい記事が一致することは滅多になく、それらをどうやって共存させていくのかが問題だ、という代わり映えのしない話になるんですが、時間が経った今も、その答えは出ていません。その証拠に、「Webメディアの未来」系のイベントでは毎度同じようなメンツが同じようなテーマについて話していますし、現場目線で見ても「まるで成長していない…」と思うことはちょくちょくあります。

さて、先ほどの「もし今コソボが独立宣言をしたら、ヤフーニュースで1位をとれるのか」という疑問ですが、答えは簡単です。1位なんて取れるわけありません。でもまあ、昔よりは読まれるんじゃないでしょうか。ギリ独立したかな?くらいは。

あ、でも今はオリンピックの記事がめちゃくちゃ読まれるので、やっぱりコソボは独立しないかも…